堤内研究室

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研究紹介

研究テーマ

(1→3)-β-D-グルカンの化学合成

食品中のアクリルアミドに関する研究

標的指向性磁性ナノ粒子の調製と機能評価(PDF形式:約0KB)

新規がん温熱療法におけるオープンイノベーション研究(2018-2020)

植物由来の既存添加物「クチナシ青色素」の分子構造を解明

放射線から簡便に発電する方法を開発

中部大学ワイン・日本酒プロジェクト



 

(1→3)-β-D-グルカンの化学合成

 β-(1→3)結合を主鎖に持つ多糖は、キノコや菌類や藻類および植物の構造多糖あるいは貯蔵多糖として、広く自然界に存在する天然高分子です。生理活性などの機能解析が活発に行われた結果、免疫賦活作用に基づく抗腫瘍活性など興味深い薬理活性を示すことが判明し、レンチナン(シイタケ)、シゾフィラン(スエヒロタケ)、クレスチン(カワラタケ)といった医薬品が誕生しました。また、最近では核酸とシゾフィランがそれぞれ1本と2本からなる3重らせんを形成しうることが見出され、遺伝子マニピュレーターとしての機能も期待されていることから、(1→3)-β-D-グルカンは機能性高分子材料として大変興味深い物質群と言えます。

 近年でも様々なキノコ類から相次いで高活性な多糖成分が抽出されています。"β-グルカン"といいう名で広く一般に知られるこれらの多糖成分は様々な分岐間隔で単糖、オリゴ糖及びペプチド側鎖を有することが示唆されており、(1→3)-β-D-グルカンの分岐機構と薬理活性との相関に関心が集まっています。しかし、その多くは側鎖が単一でないため、シゾフィランなど単糖を側鎖に有するものと違い、その機能がどの構造に由来するかをとくていすることが困難な状況となっています。この"β-グルカン"の構造と機能との相関を明確にするには、単一な側鎖構造を有するモデル多糖を用いてそれぞれの生理活性を評価してやればよいのですが、そのような多糖の合成は非常に困難で、ほとんど成功例がないというのが実情です。

 ただし、多くの多糖は、下の模式図に示してあるように側鎖が単一でないため、レンチナンなど単糖を側鎖に有するものと違い、その機能がどの構造に由来するかを特定することが困難な状況となっています。例として、構造が明らかにされているマンネンタケ由来多糖についてご覧下さい1。従って、化学合成を用いて構造が明確なモデル多糖を合成し、その機能を解析することが必要となる訳なのですが、そのような分岐型(1→3)-β-D-グルカンの合成は極めて困難であり、側鎖のない(1→3)-β-D-グルカンの化学合成ですら、速報で1例しか報告されていない状態です2。ゆえに、本研究では1,3-アンヒドロ糖誘導体の開環重合を基盤としてβ(1→3) 結合を主鎖にもつ生理活性多糖を様々に合成し、構造と機能の詳細な相関解析を目的としました。

 論文発表はまだですが目的とする分岐型(1→3)-β-D-グルカンがいくつか合成され、免疫活性の検討も始まっています。今後の進展にご期待下さい。

 

  1. X. Bao, C. Liu, J. Fang, and X. Li, Carbohydr. Res., 332, 67-74 (2001).
     

  2. M. Okada, Y. Yamakawa, and H. Sumitomo, Macromolecules, 24, 6797-6799 (1991).



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食品中のアクリルアミドに関する研究

 2002年、ジャガイモのような炭水化物を多く含む食材を高温で加熱した食品がアクリルアミドを含有していると発表されました。アクリルアミドは国際ガン研究機関の発ガン性分類において『人に対して恐らく発ガン性がある』という分類に属しており、人の健康への影響が懸念されています。厚生労働省のホームページにも『産業界に対して、アクリルアミド生成を抑制する製造条件等の研究を早急に実施するよう要請する。』と明記されており、食品産業における大きな課題の1つとなっています。

 食品中アクリルアミドに関する研究は世界中で活発に進められ、分析法の開発や生成機構についての研究は概ね完了いたしましたが、毒性に関する研究や低減化技術の開発については、まだ多くの課題が残っています。アクリルアミドの生成機構として知られるMaillard反応は、いわゆる褐変反応であり、この反応に由来する独特の色と香りは人々の嗜好を満たす重要な要素となっています。従って、褐変反応自体をあまりに抑制しようとすると、食品としての価値を損ないかねません。

 また、食品加工時の含水率や温度、加熱時間、共存物質など、アクリルアミド生成には様々な要素が影響を及ぼすことも、低減化技術の開発を難しくしている要因であると思われます。従って、食品中アクリルアミド含量の低減化をするには、万能な低減化法の開発を待つのではなく、現在提案されているいくつかの方法を組み合わせて、個々の食品で加工条件の最適化をするしかないというのが実情です。

 このような食品中アクリルアミド問題の解明、解決することを目的として、私たちは以下のような取り組みをしてきました。

1)イオントラップ型LC/MS/MSによる食品中アクリルアミド定量法の開発1

 食品中に含まれるアクリルアミドの定量は液体クロマトグラフィー/タンデムマススペクトロメトリー(LC/MS/MS)法やガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)法が主流となっています。GC/MS法はLC/MS/MSと比較して装置が安価なのですが、アクリルアミドを臭素と反応させなければならないため操作が煩雑となる点が欠点とされており、直接測定が可能なLC/MS/MS法が好まれる傾向にあります。しかし、LC/MS/MS法には高価な四重極型/四重極型の質量分析装置が必要とされ、ごく限られた研究機関などでしかLC/MS/MSによるアクリルアミドの定量はできない状況でした。

 そこで私たちは、比較的安価なイオントラップ型LC/MS/MSによる食品中アクリルアミド定量法を検討しました。食品試料の前処理方法の改善やアクリルアミドの安定同位体を内部標準とすることで、従来法に匹敵する精度の定量法を開発することができ、四重極型/四重極型の質量分析装置がなくても、イオントラップ型質量分析装置があればアクリルアミドの定量分析が可能であることを示しました。

2)イオントラップ型LC/MS/MSによるアクリルアミド定量法の信頼性の確認

 私たちは独自に開発したイオントラップ型LC/MS/MSによるアクリルアミド分析法が信頼できるものであることを調べるために、世界最大規模で実施されている英国Central Science Laboratory の外部品質査定プログラム(FAPAS)に参加しました。このプログラムは参加者に均質性が保たれた試料を世界中に配布し、参加者が任意の分析法で測定した結果を統計処理して、参加機関の結果一覧を送付してくれるものです。統計処理した結果の1つにzスコアというものがあり、その絶対値が2以内であればその分析結果は『満足』、2より大きく3未満であれば『疑わしい』、3以上であれば『不満足』と判断されます。

 試料としてラスク、シリアル、ポテトチップス(アクリルアミド含量はそれぞれ711 mg/kg60.9 mg/kg1404 mg/kg)が用意された過去3回のラウンドに参加したところ、私たちのzスコアはそれぞれ0.3-0.4-0.8 となっていました。以上の結果から、私たちの分析が十分信頼できるものであることが確認されました。

3)市販加工食品におけるアクリルアミド含量の調査研究

 イオントラップ型LC/MS/MSを用いて市販食品37検体の実態調査を行いました。その結果,ポテトスナックから最高3570 ng/gのアクリルアミドを検出したほか,熱処理した多くの食品からアクリルアミドを検出しました(図1)。

 

図1.市販加工食品におけるアクリルアミド含量の調査結果

 

4)アクリルアミド生成に及ぼす糖質の影響調査2

 アクリルアミドは食品中のアスパラギンと糖質とのMaillard反応によって生成するとされていますが、糖質の影響に関して詳細に検討した例はほとんどありませんでした。そこで我たちは馬鈴薯を意識して成分を単純化した食品モデルを設計し、種々の糖質を用いて加熱時間に伴うアクリルアミド含量の変化を調べました。

 Maillard反応はアミノ酸のアミノ基と還元糖のカルボニル基とが反応するアミノ-カルボニル反応から始まる一連の褐変反応のことであり、糖質においては還元性の有無が重要とされてきました。私たちの実験でも、ブドウ糖をはじめ果糖、乳糖、麦芽糖といった還元性の単糖および二糖を用いた場合は活発なアクリルアミドの生成を確認することができました。一方、還元性のない糖アルコールを糖質に用いた場合は、アクリルアミドの生成が極めて少なく、加熱加工食品の甘味料としてアクリルアミドの低減化に有効であることを確認しました。ここまでは予想通りの結果なのですが、意外なことに還元性のないショ糖や還元性が無視できる多糖を用いた場合もアクリルアミドが生成することが見出され、現在その生成機構の解明に取り組んでいます。これら一連の研究により、私たちは糖質の種類によってアクリルアミドの生成がどのように変化してゆくかという詳細なデータを得ることができました。これらの知見は食品中のアクリルアミド含量低減化を考える際の基礎データとして有意義なものと考えています。

5)イオントラップ型CE/MS/MSによるアスパラギン定量法の開発

 上述したように、現在、アミノ酸の1つであるアスパラギンが分解してアクリルアミドとなることがわかっています。実際、麦類を原材料とする加熱加工食品でのアクリルアミド含量は原材料に含まれるアスパラギン量と相関があると報告されており、アクリルアミドの低減化法として、アスパラギン量の少ない原材料を選んで利用することが挙げられています。このような状況を踏まえ、私たちはより簡便で迅速なアスパラギンの分析法の開発を検討しました。その結果、キャピラリー電気泳動とイオントラップ型質量分析装置を接続した装置(イオントラップ型CE/MS/MS)を用いたアスパラギンの定量法を開発しました。この方法では粉砕した食品に水を加え、遠心分離後、上澄みをろ過し、アスパラギンの安定同位体を内部標準として加えれば測定可能である。除タンパクや固相抽出などの操作は一切必要ない。私たちはこの方法を用いて馬鈴薯加熱時のアスパラギン量の変化を調べ、アクリルアミドの生成挙動とアスパラギンの消費挙動が非常によく対応していることを確認することができました。

 以上、私たちの食品中アクリルアミドに関する取り組みを紹介させて頂きました。世界の研究動向を紹介しますと、現在のところアクリルアミドの低減化についての研究はフライドポテトやポテトチップス、もしくはそれらを考慮した馬鈴薯に関するものが最も多く、麦類がこれに続いて研究されています3。他にはコーヒーが研究対象に取り上げられていますが論文数などはまだ少ない状況です。馬鈴薯で有効な方法が麦類では効果を示さないことも多く、また、同じ馬鈴薯への適用であっても論文で主張の食い違う事例がいくつかありました。Maillard反応の複雑さがアクリルアミド生成にいくつもの要因を与え、それらが複雑に関与した結果と思われます。形の違いもアクリルアミド生成に大きく影響するなど、アクリルアミド低減化で考慮すべき項目は実に多くあります。現在、毒性研究が十分に進んでいないため、許容濃度の設定がされておらず、特に規制もありません。しかし、食品中のアクリルアミド濃度は、上水道用の水に許容されている上限値(0.5 mg/L)と比較して1000倍以上となる場合もあり、消費者がアクリルアミド含量の低い商品を求めるのはごく自然なことだと思います。私たちの分析技術や基礎データなどが食品の安全と安心の向上に貢献できれば幸いです。

 

  1. K. Tsutsumiuchi, M. Hibino, M. Kambe, K. Oishi, M. Okada, J. Miwa, and H. Taniguchi, Application of Ion-trap LC/MS/MS for Determination of Acrylamide in Processed Foods, J. Food Hyg. Soc. Japan, 45 (2), 95-99 (2004).
     

  2. K. Tsutsumiuchi, M. Hibino, M. Kambe, N. Okajima, M. Okada, J. Miwa, and H. Taniguchi, Effect of Carbohydrates on Formation of Acrylamide in Cooked Food Models, J. Appl. Glycosci., 52 (3), 219-224 (2005).
     

  3. 堤内 要, 加工食品中のアクリルアミドモノマーの低減化法について, 食品衛生学雑誌, 46 (6), J-335-J-337 (2005).


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