中部大学 応用生物学部 環境生物科学科 岡田正弘 研究室

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細胞密度依存的遺伝子発現制御システム ~クオラムセンシング~

細胞密度依存的遺伝子発現制御システム ~クオラムセンシング~

 生物が生存競争に勝ち残っていくためには環境の変化に柔軟に対応することが必要である。光や酸素などの他にも集団密度は重要な環境要因の一つであり、特に細胞分裂速度が比較的速い細菌では菌体の密度を感知して集団行動を制御する特別な仕組みが存在する。この細胞密度依存的な遺伝子発現制御システムのことをクオラムセンシング (定数感知) と呼ぶ。その仕組みは単純明快で、常に細胞外にフェロモン分子を分泌するというものである(図1)。つまり、細胞密度が低いうちはフェロモン濃度も低いので何も起こらないのだが、細胞密度の上昇に伴い濃度が上昇し、ある一定の濃度に達したときに遺伝子発現を経て様々な現象へと誘導されるのである。つまり、細菌は細胞密度をフェロモンの濃度に置き換えて感知しているのである。このクオラムセンシングによって引き起こされる現象は様々なものがある。有名なものとしては生物発光があり、冒険小説 "海底二万里" (ジュール・ヴェルヌ, 1870年) にもMilky sea (乳白色の海) として海が光る現象が登場する。これは実際に見られる現象であり、海洋性細菌が密度の上昇に伴い発光し数百kmに渡って光っている写真が人工衛星から確認されている。その他に病原性の獲得や抗生物質の生産、バイオフィルムの形成、胞子形成、形質転換などが知られており、細菌が引き起こすほとんどの現象はクオラムセンシングに制御されていると言っても過言ではない。つまり、細菌の多くの行動はクオラムセンシングフェロモンに支配されているのである。クオラムセンシングフェロモンは一般に種 (属) 特異的に作用し、現象に対応した複数のフェロモンを分泌している。また、それらの化学構造は、グラム陰性細菌ではアシルホモセリンラクトン構造を有する低分子化合物であり、グラム陽性細菌の場合はペプチドである。しかしながら、近年これらの一般則に当てはまらないフェロモン分子も次々と明らかになっており、さらに細菌以外の真核微生物からもクオラムセンシングフェロモンが報告されるなど、未だ未解明のクオラムセンシングフェロモンも多く存在すると考えられる。

図1 クオラムセンシングの模式図

細菌は常に細胞外にフェロモンを分泌していて、細胞密度が低いうちはフェロモン濃度も低いので何も起こらない。しかし、増殖に伴い細胞密度が高くなるとフェロモンの濃度が上昇し、クオラムセンシング機構が働き出し、特定の遺伝子発現を経て様々な現象へと誘導される。つまり、細菌は細胞密度をフェロモンの濃度に置き換えて感知しているのである。

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