翻訳後修飾 ~イソプレニル化~
翻訳後修飾 ~イソプレニル化~
4種類の塩基からなるDNAは転写されてRNAとなり、20種類のアミノ酸からなるタンパクやペプチドへと翻訳される。しかし、多くのタンパクやペプチドが機能を発現するためにはそれだけでは十分ではなく、様々な化学修飾をされて初めて本来の機能を有するようになる。これは翻訳後修飾と呼ばれ、タンパクやペプチドの機能発現のスイッチの役割を果たす動的な制御機構であり、様々なアミノ酸上で様々な翻訳後修飾の様式が明らかとなっている。例えば、リン酸化や糖鎖付加、S-S結合の形成の他にメチル化、イソプレニル化などの化学修飾や、酵素による切断などが知られている。この中で翻訳後修飾によるイソプレニル化は、酵母の1種である担子菌の接合管形成を誘導するペプチドフェロモンのC末端側のシステインにおいて初めて発見された(図3)。その後、様々な生物からも発見され、また、コンセンサス配列も明らかとなり、現在ではアミノ酸配列からイソプレニル化を推測することが可能となっており、真核生物に普遍的に見られる機能発現に必須な翻訳後修飾であることが判明している。ヒトにおいてもガン遺伝子産物の機能発現にも関与していることから抗ガン剤の標的としての研究も進められている。このイソプレニル化の役割は、疎水性基であるイソプレニル基が付加することで主に細胞膜へのアンカー(碇) の役割を果たしていると考えられている。なお、原核生物においてはこのシステインのイソプレニル化の報告例はなく、我々が発見したトリプトファンのイソプレニル化が、原核生物から初めてとなる翻訳後修飾によるイソプレニル化の報告例となったが、枯草菌以外の生物種からの報告例はない。
図3 システインとトリプトファンにおける翻訳後修飾によるイソプレニル化の比較