堀田典生 中部大学生命健康科学部 運動生理学研究室

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科学研究費補助金報告2011(一般の方へ)

はじめに

私は、2011年度より、科学研究費補助金(科研費)をいただき研究を行うことができました。ここに感謝の気持ちと研究成果を可能な限り分かりやすく示し、少しでも多くの方に還元できれば..と思っております。皆様どうもありがとうございました。

加圧トレーニングについて

加圧トレーニングとは、佐藤義昭先生が開発し、東京大学の石井直方先生のグループが科学的にその効果を証明したトレーニング方法(特許第2670421号)です。体肢(腕や脚)の根元を加圧しながらレジスタンストレーニング(いわゆる筋トレ)をすることで、加圧しない場合と比べて効率的に筋肥大・筋力の増加が期待できます。静脈のみを遮断し得る圧を加えることにより、筋収縮の結果生じた乳酸や水素イオンなどの代謝産物が留まり、比較的軽運動に相当する負荷量でも、筋肉が激しい運動をした時の状態に陥ります。それが強い刺激となり成長ホルモンなどが大量に分泌され筋タンパク同化(筋肉が付く)に寄与することが、この優れたトレーニング効果の機序の一つだと考えられていています。

“低負荷で骨格筋のトレーニング効果が得られる”ということで、負荷がかかることによる血圧上昇も防げ、通常のレジスタンストレーニングよりも安全であると考えられています。また、圧迫により、静脈還流量も減少するために心臓への負担も小さくなると考えられています。さらに、血管内皮機能改善効果なども期待されており、高齢者や寝たきり患者への応用、心臓リハビリテーションでの利用などが検討・実施されています。

血流を制限しながら行うトレーニングは安全?

ところで、運動中は、活動筋の代謝要求に応えるために適切に呼吸・循環応答は増強されます。この応答は“運動昇圧応答”と呼ばれています。運動昇圧応答に貢献する機序の一つに“筋代謝受容器反射”というものがあります。これは、筋で生じた代謝産物により筋の代謝受容器が興奮し、呼吸・循環中枢を刺激することで心拍や血圧が上昇するというものです。例えば、運動した直後に活動肢を加圧し虚血することで、筋活動をしなくても留まった代謝産物が筋代謝受容器を刺激し、心拍や血圧の上昇を容易に引き起こすことができます。また、私たちは、酸が運動昇圧応答に関与し得る筋機械受容器の機械刺激に対する応答性を増大させることも、動物を用いた実験を通して報告しています(業績のページ参照)。

従って、加圧トレーニングのように代謝産物を留め、強い酸性に筋を暴露させながら行うトレーニングでは、逆に運動昇圧応答が強まり、血圧などの循環応答が過度に高くなり、運動中の心事故や脳血管障害などにつながる可能性は否定できないと思いました。そこで、私たちは加圧トレーニング中に過剰な血圧上昇などの運動昇圧応答が起きないかを検討することにしました。

血流制限下のトレーニングと通常のレジスタンストレーニングにおいて、負荷や回数、セット間インターバルを同一にする意味はありません。そこで、ある回数、ある負荷で週2回程度、数か月程度継続した場合、筋肥大、筋力増加の程度が同じになるように、負荷や回数をそれぞれ設定しました。つまり、通常のレジスタンストレーニングは、重い負荷、低回数、1分程度のセット間インターバルにするのに対して、血流制限下のトレーニングでは、低負荷、高回数、短いセット間インターバルにしました。その結果、トレーニング中の血圧の上昇の程度は、血流制限下のトレーニングの方が大きくなることが分かりました。つまり、あくまでも実験上のデータからは、心臓血管系にリスクがある方が実施する場合は、通常の筋トレを行う以上に注意が必要であるということがいえそうです。

研究の様子

さいごに

加圧トレーニングは、加圧トレーニングを指導できる有資格者にのみ、指導を受けることができます(詳細は東京大学医学部附属病院22世紀医療センターの研 究寄附講座のホームページを参照ください)。安全に加圧トレーニングを行うためには、見よう見まねで行うことなく、やはり、資格を持った指導者からしっかり と指導を受けることが重要だということが、私たちの研究から示唆されます。

科学者・研究者の方へ

上記の内容は一般の方向けに可能な限り分かりやすく説明しようと心がけました。学術的には不適切な言い回しが多々あると思いますが、学会発表や論文としても報告して参りますので、科学者・研究者の方はそちらをご覧いただければ幸いです。

中部大学広報誌No110 2012.6 ANTENNA

本学の広報誌においても、本研究の結果を紹介いたしました。

画像ファイルにリンクします/tmp/documents/faculty/hotta_norio/e795604b936e59fc73cf2449c23151aa.jpg

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