• ページの本文のみをプリントします。ブラウザの設定で「背景色とイメージを印刷する」設定にしてください。
  • ページ全体をプリントします。ブラウザの設定で「背景色とイメージを印刷する」設定にしてください。

アメリカ合衆国の黒人圧死事件に思う(教授:河内信幸)

【2020年7月13日】

アメリカ合衆国の黒人圧死事件に思う

教授:河内信幸      

圧死事件の真相

 アメリカ合衆国(以下アメリカと略)の中西部ミネソタ州ミネアポリスで、5月25日、白人警察官が黒人男性の首を膝で押さえつけて死亡させる事件があった。黒人男性は息ができないことを訴えたが、警察官は約9分間も押さえ続けたという。その様子を撮影した動画がフェイスブックで公開されると、全米に大きな衝撃が走った。黒人男性には、小切手偽造事件の容疑がかけられていた。
 ミネソタ州司法当局は、6月3日、すでに懲戒免職となり、起訴されていた元警察官の罪名を、第3級からより重い第2級の殺人罪に変更した。第3級殺人罪の法定刑は最長で禁錮25年であるが、第2級では禁錮40年となる。また、同じく免職となった、現場にいた3人の元警察官も、第2級殺人のほう助罪で起訴された。こうして、現場にいた4人の警察官は全員が罪に問われることになった。
 ところが、警察当局への批判や抗議は収まらず、5月27日の夜には警察署前に多くの人々が集まり、デモ隊の一部が商業施設を放火したり、商品を略奪したりする事態となった。警察側は催涙弾を発射して対抗し、ミネソタ州のティム・ワルツ知事は、治安を保つために州兵を投入する知事令を出した。同様の抗議デモはロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアなどへと広がり、6月6日にはワシントンDCで数万人が参加する最大規模のデモとなった。

 ニューヨークの街角
(2018年9月撮影)

トランプ大統領の強硬姿勢

 アメリカでは、これまでも黒人に対する警察官の過剰な暴力が全米各地で問題となっており、今回の圧死事件は、警察当
局の行き過ぎた取り締まりに対する、大きな抗議運動へと発展した。新聞報道によると、抗議活動は全米の140以上の都市
に拡大し、少なくとも21州で州兵の動員が決定され、ニューヨークなどでは夜間外出禁止令も出された。全米各地でデモが
これだけ一斉に広がるのは、公民権運動を指導したキング牧師が暗殺された1968年以来とされる。その背景には、近年少
しずつ広がりを見せていた「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切)」運動があった。
 しかし、そんななかで、トランプ大統領は挑発的なメッセージを出し続けた。5月29日夜には、ホワイトハウス前で行われ
たデモ隊に対して、銃撃も辞さない強硬姿勢を示した。また、トランプ大統領は、6月1日にホワイトハウスで演説し、「法と
秩序」(Law and Order)を守る大統領として、暴力的な抗議デモを終息させるために軍隊を投入する姿勢を示した。国防
総省は、6月2日、陸軍部隊約1600人をワシントンDC近郊の基地に移動させ、高度な警戒態勢をとっていると発表した。も
しも軍隊が投入されれば、1992年のロサンゼルス暴動以来のこととなる。
 トランプ大統領は、強硬姿勢を盾にしながら、聖書を片手に「法と秩序」のパフォーマンスをとった。しかし、「法と秩
序」という言葉は、20世紀初頭に南部で黒人を秩序に従わせるという意味で使われはじめた隠語でもあり、1964年のバ
リー・ゴールドウォーター、1968年のリチャード・ニクソンなど、共和党候補が大統領選挙戦で好んで使用した。1960年
代は、公民権運動が過激化すればするほど、民主党支持者が次第に保守化していき、「法と秩序」を訴える共和党支
持へと移る傾向があった。

分断と格差か、それとも共感と連帯か

 平和的なデモ参加者の多くは、「ブラック・ライブズ・マター」を掲げ、根深い人種差別の解消を求めている。その参加者は
人種や世代を超えており、警察官が共感を示す動きも各地で伝えられた。トランプ大統領のように、社会の分断に乗じる強
硬姿勢がみられる一方で、共感や連帯を志向する市民意識の高まりも見られる。このような市民意識の高まりは、アメリカ
の黒人圧死事件に対する抗議を契機に、ヨーロッパやアフリカの国々でも広く見られた。
 しかし、歴史と社会の構造に根差す問題には、常に理想と現実のギャップがある。キング牧師などにリードされた公民権
運動は、確かに法的差別の撤廃を勝ち取ったが、人種的不平等は今も厳然と残っている。黒人に対する検問率や投獄率
が高いことは誰の眼にも明白であり、コロナ禍による死亡率は黒人が突出していると言われる。アメリカでは、人種の壁、
生活の格差に、命の軽重が付きまとっていることは確かであり、今回の黒人圧死事件は、そのような断層を浮き彫りにした
のである。                                                                                                                   (2020年7月8日)

 

(参考)事実内容の多くは、メディアやインターネットの記事を参考にさせていただきましたが、論旨に関する責任はすべて
筆者にあります。

ページの先頭へ