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「グリーン・ニューディール」とオバマ政権 -新政権の前途は多難-(国際文化学科 教授:河内 信幸)

【2009年10月13日】

2009年1月にオバマ新政権が発足すると、世界の多くの国々で「グリーン・ニューディール」構想が打ち出された。EUなどのヨーロッパ諸国はもちろんのこと、中国が「グリーン・ニューディール」を「緑色新政」と銘うって推進する姿勢を示し、韓国でも、経済危機を克服する「グリーン・ニューディール」戦略が掲げられている。

日本でも、オバマ政権の発足と軌を一にして、経済産業省が2009年1月に「新エネルギー社会システム推進室」を発足させ、「日本版グリーン・ニューディール」戦略を模索し始めた。また環境省も、2009年4月に「緑の経済と社会の変革」と題する「日本版グリーン・ニューディール」の方針を打ち出した。

オバマ政権の「グリーン・ニューディール」

これまで行われてきた環境重視の社会政策は、「経済」・「環境」・「資源」のバランスを基盤にしたものであった。しかし、「グリーン・ニューディール」のコンセプトは、このような3つの要素が分離したものではなく、「経済」・「環境」・「資源」が密接不可分という理念に基づき、これらを融合させた社会の実現をめざそうとするものである。そして、「グリーン・ニューディール」は、「経済」・「環境」・「資源」の融合を前提に、“グリーン・ジョブ”の雇用を拡大し、社会インフラや産業システムを大きく転換させようとする構想である。

オバマ政権は、就任直後の2009年2月に「アメリカ再生・再投資法」(ARRA)を成立させた。このARRAは約880億ドルを環境・エネルギー関連に充当し、クリーン・エネルギーの推進、自動車の環境対策、エネルギー自給率の向上などを図り、温暖化防止と経済再生を両立させようとするものであり、「グリーン・ニューディール」を「グリーン・エコノミー」に発展させる方向性を示したものである。このような「グリーン・ニューディール」の基軸をなすのが「スマート・グリッド」構想であり、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーに基づき、広く全米に多目的な送電線ネットワークを整備しようとする計画である。

経済対策と環境対策

オバマ政権は、経済対策チームと環境対策チームが連携をとり、「グリーン・ニューディール」構想を具体化する。経済対策チームにはティモシー・ガイトナー財務長官、ローレンス・サマーズ国家経済会議委員長、ピーター・オルザグ行政管理予算局長、クリスティーナ・ローマー経済諮問委員会委員長、メロディー・バーンズ国民政策委員会委員長などが据わり、不況の克服を「グリーン・エコノミー」の実現に結びつけられるかどうかが問われている。

また環境対策チームには、ステーヴン・チューエネルギー長官、リサ・ジャクソン環境保護庁長官、ナンシー・サトリー環境評議会議長などがおり、新政権で初めておかれたエネルギー・気候変動問題担当大統領補佐官のキャロル・ブラウナーや、科学技術担当大統領補佐官のジョン・ホルドレンも重要な役割を担っているといわれる。ブッシュ前政権は、2001年3月に第3回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP3)の「京都議定書」から離脱したが、オバマ政権の環境対策チームには、温暖化防止とエネルギー問題への強い政策姿勢が期待されている。

国際的には、以前からいくつかのシンクタンクや国連機関が「グリーン・ニューディール」構想を発表していたが、オバマ政権の「グリーン・ニューディール」に最も影響を与えたのは、ワシントンのシンクタンク「センター・フォー・アメリカン・プログレス」であった。この民主党系のシンクタンクがリードし、マサチュセッツ大学アマースト校の経済学部と政治経済研究所の協力によって、2008年9月に『グリーン・リカバリー』(Green Recovery)と題する報告書が発表された。『グリーン・リカバリー』は、低炭素社会の構築、省エネ対策の推進が雇用の拡大と経済再生につながると提唱し、オバマの当選にも大きく寄与したといわれる。

「グリーン・ニューディール」に大きな壁

しかし、オバマ政権は大きな壁にぶつかっている。オバマ大統領は就任直後に「アメリカ再生・再投資法」(ARRA)を成立させたものの、「グリーン・ニューディール」を具体化させるための「再生可能エネルギー法」や「気候変動法」などの法制化は、共和党の反対により未だに実現していない。連邦議会下院は、2009年3月末、気候変動とエネルギー関連条項を盛り込んだ「ワックスマン・マーキー法案」を発表したが、こちらも成立の目途は立っていない。

しかも現在、医療保険制度改革でもオバマ政権は苦境に立たされており、産業界や国民世論の批判が高まり、大統領自身の支持率も50%前後へと急速に下がってきた。さらに2009年8月、オバマ政権は2009年度の財政赤字が約1兆5800億ドルにのぼることを明らかにし、今後2010年から2019年度までに約9兆ドル以上になると予想される財政赤字が、「グリーン・ニューディール」の先行きに暗い影を落としている。

オバマ政権としては、2009年12月にコペンハーゲンで開かれる第15回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)までに、ARRA関連法案を制定して「グリーン・ニューディール」の道筋を確かなものにしたかった。しかし、そのシナリオはかなり崩れてきており、「グリーン・ニューディール」の道程は決して平坦ではない。

2009年10月13日

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