吉村研究室

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アスコルビン酸生合成経路

アスコルビン酸(ビタミンC)生合成経路の制御機構

 周知のようにビタミンC(アスコルビン酸: AsA)は、動物、植物、藻類を含めた光合成生物において、水溶性の酸化還元物質として抗酸化に機能するだけでなく、補酵素や電子伝達など様々な生理作用を発揮しています。植物のAsA生合成経路に関する研究は、モデル植物シロイヌナズナのAsA欠乏変異体(vtc; vitamin C-deficient mutants)の単離同定以降、加速度的に進展し、今日では光合成の産物であるD-フルクトースをもとに、D-マンノース(D-Man)およびL-ガラクトース(L-Gal)を代謝中間体としてAsAを合成するD-Man/L-Gal経路が、少なくとも葉において最も主要であることに疑いはありません。

 植物はAsAを豊富に含んでおり、そのレベルは細胞壁やデンプンを除いた可溶性糖質の中で最大約10%にも達します。したがって、AsA自身の必要レベルを満たすだけでなく、炭素代謝や炭素分配を正常に維持するためにも、AsA生合成は厳密に制御する必要があります。事実、細胞内AsAレベルは光合成と密接に関わることが知られています。すなわち、光合成により豊富な炭素源の供給が可能な明条件下ではAsA蓄積量は増大し、炭素源が大幅に制限される暗所下では大幅に減少します。しかしこれまでに、植物のAsA生合成が多段階で複雑に制御されていることがわかってきていますが、個々の段階の重要性は不明なままです。植物細胞内におけるAsAの最大蓄積レベルの理解は、AsA生合成制御だけでなく、有用成分の蓄積レベルを増加させた作物の分子育種の観点からも重要です。

 そこで我々は、植物のAsA生合成の真の律速段階を特定するために、D-Man/L-Gal経路構成酵素の中で、転写レベルで光応答性を示すPMI1、VTC1、VTC2、およびVTC4に加え、AsAと細胞壁や糖修飾などへの炭素分配の鍵段階を触媒するGMEの一過的な誘導発現が細胞内AsAレベルに及ぼす影響を検討し、VTC2の転写レベルがシロイヌナズナのAsA生合成の明暗制御に重要であることを明らかにしました。

 

 本研究から、VTC2の転写制御が植物のAsA生合成の最も重要なマスタースイッチであるものの、その他にも予防的に多系統からなる制御システムが存在し、AsAの過剰生産を厳密に防いでいると考えられました。現在、その全容を明らかにするために、VTC2の光応答に関わる転写制御やその他の制御系の分子機構に加え、AsAのオルガネラおよび器官間の輸送系、細胞内AsA蓄積レベルの規定因子の解析を進めています。

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