中部大学の研究活動

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動物寄生性線虫4億年の進化の軌跡をヤスデから解明―進化的に起源の異なる2種類の寄生性線虫がヤスデ腸内に共生していた―(長谷川浩一准教授ら)

【2021年6月16日】

研究成果のポイント

  • ヤスデ腸内にライゴネマとギョウチュウの2種類の寄生性線虫グループが共存していた
  • ライゴネマはヤスデに特化して寄生する線虫グループで、かつ捕食・被食がきっかけでその一部が両棲類・爬虫類寄生性を獲得・進化したと思われる
  • ギョウチュウはゴキブリとヤスデやゴキブリを宿主にしながら、宿主特異性の低さによって多様性を増幅させ、ヒトを含む脊椎動物寄生性を広げて動物全体に広まった線虫グループであると推測される
  • これら寄生性線虫は病原体ではなく、動物宿主と良好な関係を築きながら一緒に進化した共生パートナーである

概要

中部大学 応用生物学部 環境生物科学科の長谷川浩一准教授と博士課程の長江星八大学院生は、熊本大学先端科学研究部の田辺力教授、と理化学研究所の佐藤一輝博士ともにらと共同で、中部大学キャンパスをはじめとする中部地方およびと九州地方の森林に生息するババヤスデ科9種のヤスデを調べたところ、進化的起源の異なる2種類の寄生性線虫が同時にヤスデ1頭に寄生していることを発見した。

ヤスデは、ゲジやムカデと同じ多足類に属する節足動物で、その祖先は古生代シルル紀(およそ4億年前)の頃に水中生活から陸上生活を始めたと考えられている(参考文献1)。ババヤスデ科ヤスデは体長7cmの大型のものもいて、橙色の美しい体色の種も存在するものの、日中は落ち葉のなかに潜っているので目立たない。毒顎でヒトを襲う肉食のムカデと形が似ているが、ヤスデはヒトを襲うことはなく、落ち葉を食べて生活する森の分解者である。世界中に分布が確認されており、日本でも北海道から沖縄まで生息している(参考文献2)。

調査したババヤスデ9種(図1)全てに、ライゴネマグループとギョウチュウグループの2種類の寄生性線虫が同時に1頭のヤスデ宿主に寄生し(図2)、両線虫はお互いを排除することなく共生し、そして宿主ヤスデにも悪い影響が見られなかった。寄生様式の調査と分子系統解析から、ライゴネマはアニサキスや回虫(かいちゅう)に近縁で、おそらく水中生活を送っていた時代からヤスデ宿主と密接な関係を確立させて一緒に進化してきたヤスデ独自の寄生性線虫グループであると考えられる。また、その一部から両棲類・爬虫類寄生性(コスモセルコイデア)が派生しており、宿主間の捕食・被食を介して寄生性線虫の宿主範囲が広がったのではないかと考えた(図3)。

一方ギョウチュウは、ヒトも含めた脊椎・無脊椎動物問わず広く動物界に寄生する蟯虫(ギョウチュウ)のなかの無脊椎動物寄生性グループであった。ギョウチュウに共通してみられる寄生方法として、宿主の糞とともに体外に放出される寄生虫卵が他個体に経口感染するため、生息場所が重なる他の動物種にも寄生するチャンスが高い。ギョウチュウグループの仲間の一部であるゴキブリ寄生性線虫は、種数がとても多く、宿主特異性が低いことも示されている(参考文献3)。ギョウチュウグループの分子系統解析の結果、動物宿主の系統関係と一致しないことからも、特定の宿主動物との密接な関係を確立せずに(種特異性を低く保ち)種の多様性を高めながら無脊椎動物全体に寄生を広げ、脊椎動物に寄生性を拡大していったのではないかと考えた(図4)。ギョウチュウグループが高い多様性を有し動物全体に広ったのは、もともと自由生活性(寄生性を有しない)の線虫がゴキブリあるいはヤスデと関係を結んだことが最初のきっかけではないかとする「寄生虫進化仮説」を支持するものである(参考文献3)。

動物腸内に生息する寄生性線虫の中には、宿主に対して病原性を持たないものも多い。宿主動物は線虫に寄生されていることが前提で、寄生性線虫とともに共進化してきたことから、寄生性線虫が無くてはむしろ宿主腸内細菌などの健全なバランスが崩れてしまい、本来の健康が損なわれてしまうと考えられる。一方、宿主動物に病原性をもたらすその他線虫グループも存在するため、寄生性線虫は全て動物宿主体内から排除すべき病害生物であると思われている。今回の成果は、寄生性線虫が共生パートナーであると捉え、動物と寄生性線虫の間で構築された共生関係を生物進化スケールで理解し、動物本来の健康の本質に迫ることを目指した研究の一部であり、英学術出版大手シュプリンガー・ネイチャーの進化生物学専門誌BMCエコロジー・アンド・エボリューション(電子版)に掲載された。

図1

図1. 調べたババヤスデ9種 (画像をクリックすると拡大します)
A. ババヤスデParafontaria laminata CU(大きさ約3cm、愛知にて採集)
B. ミドリババヤスデ種複合体P. tonominea species complex CU(大きさ約5 cm、愛知にて採集)
C. ババヤスデP. laminata Ki(大きさ約4 cm、岐阜にて採集)
D. P. tonominea species complex Ki (大きさ約5 cm、岐阜にて採集)
E. ミドリババヤスデ種複合体P. tonominea species complex Hy(大きさ約5 cm、岐阜にて採集)
F. ミドリババヤスデ種複合体P. tonominea species complex Em(大きさ約6 cm、岐阜にて採集)
G. ヒダババヤスデP. longa Em(大きさ約6 cm、岐阜にて採集)
H. カマトゲアマビコヤスデRiukiaria cornuta Ya(大きさ約7 cm、熊本にて採集)
I. コケイロアマビコヤスデR. anachoreta Mi(大きさ約5 cm、鹿児島にて採集)
J. アマビコヤスデR. semicircularis semicircularis Mi(大きさ約5 cm、鹿児島にて採集)
K. アマビコヤスデR. semicircularis semicircularis Sh (大きさ約5 cm、鹿児島にて採集)

図2

図2. ヤスデに寄生する2種類の寄生性線虫
(画像をクリックすると拡大します)

図3

図3. ヤスデ寄生性ライゴネマグループの系統関係。ヤスデ寄生性線虫で占められているがその一部から両棲類・爬虫類寄生性線虫が出現していることがわかる
(画像をクリックすると拡大します)

図4

図4. ギョウチュウグループの系統関係。様々な無脊椎動物寄生性線虫が混合していることがわかる
(画像をクリックすると拡大します)

論文の情報

Nagae, S., Sato, K., Tanabe, T., Hasegawa, K.
“Symbiosis of the millipede parasitic nematodes Rhigonematoidea and Thelastomatoidea with evolutionary different origins”, . BMC Ecology and Evolution 21, 120.
DOI: 10.1186/s12862-021-01851-4

参考文献

  1. 田辺力 (2001) 多足類読本―ムカデやヤスデの生物学. 東海大学出版会
    ISBN: 978-4486015444
  2. Means, J.C., Hennen, D.A., Tanabe, T., Marek, P.E. (2021) Phylogenetic systematics of the millipede family Xystodesmidae. Insect Systematics and Diversity 5, 1-26. .
    DOI: 10.1093/isd/ixab003
  3. Ozawa, S., Hasegawa, K. (2018) Broad infectivity of Leidynema appendiculatum (Nematoda: Oxyurida: Thelastomatidae) parasite of the smokybrown cockroach Periplaneta fuliginosa (Blattodea: Blattidae). Ecology and Evolution 8 (8), 3908-3918.
    DOI:10.1002/ece3.3948

本学のお問い合わせ先

研究内容について
長谷川浩一(応用生物学部 環境生物科学科 准教授)
Eメール:koichihasegawa[at]isc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-9864(直通)

報道について
中部大学 学園広報部 広報課
Eメール:cuinfo[at]office.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-7638(直通)

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