中部大学の研究活動

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皮膚がんに特徴的な遺伝子発現を制御するスイッチを発見 ─前がん状態での早期発見に期待─ (古川圭子教授ら)

【2019年10月18日】

プレスリリース

研究成果のポイント

  • 皮膚で炎症を起こす物質がメラノサイトでがん関連糖脂質の発現スイッチをON
  • メラニン合成を誘導する物質ががん関連糖脂質の発現スイッチをOFF
  • がん化したメラノーマ細胞ではがん関連糖脂質の発現スイッチが常時ON
  • 糖脂質の合成酵素遺伝子発現のモニタリングで前がん状態を予測できる可能性を提案

発表内容

中部大学 生命健康科学部 生命医科学科の古川圭子教授別サイトにリンクしますと竹内理香助手(現、関西学院大学 理工学部 生命科学科助手)らは、皮膚などにできるがんの一種「メラノーマ(悪性黒色腫)」の細胞膜表面に現れる「酸性スフィンゴ糖脂質(GD3*1)」とその合成酵素遺伝子の「GD3合成酵素遺伝子(GD3 syn. mRNA)」を、正常細胞の「メラノサイト*2」に発生させたり抑制させたりするスイッチを初めて発見した。過度の紫外線被曝で発生する炎症因子の刺激が優勢になると発現する遺伝子“GD3 syn. mRNA”をモニタリングすれば細胞の前がん状態をキャッチすることができ、がん予防に繋げることが期待できる。

皮膚の表皮(図1)は主に「ケラチノサイト」という細胞で構成されている。基底層にはメラノサイトが点在し、紫外線を遮る色素「メラニン」を生合成している。

図1 皮膚表皮構造の断面イメージ

皮膚に紫外線が当たると、ケラチノサイトから様々な物質が生み出される。その1つが「メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)」で、これがメラノサイトに作用するとメラニンが生合成され、ケラチノサイトに分配される。その結果、ケラチノサイトではメラニンが紫外線によるDNAの損傷を防ぐ。しかしケラチノサイトからはα-MSH以外に「炎症性サイトカイン」も分泌され、皮膚の炎症反応を引き起こす。持続的な炎症反応(慢性炎症)は発がんの誘因になる。

今回、炎症性サイトカインの一種である「TNFα」がメラノサイトにがん特有のGD3とそのもとになる合成酵素遺伝子のメッセンジャーRNA(GD3 syn. mRNA)を作り出す働きがあることがわかった。一方でTNFαと同じケラチノサイトから分泌されるα-MSHがメラノサイトに作用すると、細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)である「環状アデノシン一リン酸(cAMP)」のシグナル経路*3が起動してGD3 syn. mRNAの発現を抑制することも確認した。ケラチノサイトから分泌されるTNFαはがん細胞にみられる物質を発現し、α-MSHは逆に発現を抑制するという正反対の性質を持っていることがわかった(図2)。

通常はケラチノサイトが出すα-MSHがメラノサイト内でGD3 syn. mRNAの発現スイッチをOFFにしており、過度に紫外線を浴びるとTNFαの働きが勝ってスイッチをONにすると考えらえる。スイッチのON/OFFは、cAMPとTNFαのバランスで決まることになる。一方、すでにがん化したメラノーマの細胞ではスイッチが常にONになっていることもわかった。これらの結果から、GD3 syn. mRNAをモニタリングすれば細胞の前がん状態を予想できる可能性がある。

図2 メラノーマができる仕組みの模式図

メラノーマと異なり、小児がんの一種である神経芽細胞腫や悪性度の高い乳がんでは、GD2という酸性スフィンゴ糖脂質が発現する。そのためGD2は現在、抗体医薬開発の標的分子としても注目されている。GD2の生合成過程にはGD3合成酵素が必要になる。従って、これらのがんに関しても、前がん状態を知るためにGD3 syn. mRNAのモニタリングは有用となるだろう。また。近年、「エクソソーム*4」という細胞外分泌小胞が注目されているが、今後、エクソソーム中のGD3 syn. mRNAを検出することで、このmRNAのモニタリングが可能になるかもしれない。

今回の成果は英科学誌Scientific Reports(電子版)に掲載された。
Rika Takeuchi, Keiko Furukawa et al., "TNFα-signal and cAMP-mediated signals oppositely regulate melanoma- associated ganglioside GD3 synthase gene in human melanocytes", Scientific Reports.
https://www.nature.com/articles/s41598-019-51333-3

用語解説

*1 スフィンゴ糖脂質

セラミドという脂質に糖鎖が結合したもので、主に細胞膜に存在する。GD3はスフィンゴ糖脂質の1種で、2個のシアル酸という酸性を示す糖を含んでいることが特徴的である。

*2 メラノサイト

メラニンを産生する細胞で皮膚表皮の基底層に点在する。メラニンの生合成はメラノゾームで行われ、このように産生されたメラニン顆粒は周囲のケラチノサイトに分配される。メラノーマは皮膚がんの1つで、メラノサイトががん化した腫瘍である。

*3 cAMP

細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)の一種である低分子化合物。細胞内でcAMPが増加するとAキナーゼという酵素が活性化し、様々な細胞内の応答が引きおこる。

*4 エクソソーム

細胞から分泌される直径約100nm程度の細胞外小胞で、種々のタンパク質、mRNA、microRNAなどを内包する。これらの内包された物質は細胞から細胞に伝達される。また、エクソソームは血液などの体液中にも存在するため、エクソソームによる疾患の診断や治療応用が期待されている。

問い合わせ先

古川圭子 (中部大学 生命健康科学部 生命医科学科 教授)
電子メール:keikofu[at]isc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-6704(直通)

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