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第27回理学談話会「質量の起源-ヒッグス粒子の本性を探る」

【2015年6月17日15時20分】

 

日時 2015年6月17日(水曜日) 午後3時20分〜
場所 9号館2階 924講義室
話題提供
山脇 幸一 先生
(元名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構副機構長・教授)
  Center for Polymer Studies and Department of Physics, Boston University, Boston, Massachusetts 02215 USA
  Departamento de Fsica, Instituto Federal de Educac~ao, Ci^encia e Tecnologia do Maranh~ao, 65030-005 S~ao Lus, MA, Brazil
  Center for Polymer Studies and Department of Physics, Boston University, Boston, Massachusetts 02215 USA
  Departamento de Fsica, Instituto Federal de Educac~ao, Ci^encia e Tecnologia do Maranh~ao, 65030-005 S~ao Lus, MA, Brazil
  Center for Polymer Studies and Department of Physics, Boston University, Boston, Massachusetts 02215 USA
  Departamento de Fsica, Instituto Federal de Educac~ao, Ci^encia e Tecnologia do Maranh~ao, 65030-005 S~ao Lus, MA, Brazil
  Center for Polymer Studies and Department of Physics, Boston University, Boston, Massachusetts 02215 USA
  Departamento de Fsica, Instituto Federal de Educac~ao, Ci^encia e Tecnologia do Maranh~ao, 65030-005 S~ao Lus, MA, Brazil
概要
Extended Standard Model in Multi-Spinor Field Formalism
                    -- Bright World versus Dark World --
 
多重スピノール場の形式による標準模型の拡張
―― 明世界と暗世界 ――
 
LHC実験によって、ヒッグス粒子の存在が確認された。これにより、素粒子の
標準模型は、自然界の一部分を記述する理論形式として確立されたと考えられる。
しかし、この形式は宇宙を構成する主成分である暗黒物質の存在を説明すること
ができない。また、標準模型は、通常の物質の構成要素である基本フェルミオン
が“三つの家族”を構成することを仮定するが、その根拠を明らかにすることが
できない。今回のセミナーでは、標準模型が抱えるこれらの限界を越える試みと
して提唱された“多重スピノール場の理論”を詳しく紹介する。この理論は基本
フェルミオンとして、通常の“三つの家族”と共に、暗黒物質の主要な構成要素
となる“もう一つの付加的な家族”を含んでいる。暗黒物質と同定される基本的
フェルミオンの特性と観測方法を説明し、素粒子物理と宇宙物理の融合を論じる。
 
                              曽我見郁夫講演要旨:

素粒子の質量の起源と目されているヒッグス粒子が2012年に発見されましたが、ヒッグス粒子自身の質量の起源は未解明のままであり、より基本的な理論の存在が示唆されています。この講演では、ゼロ質量の基本理論から力学的効果で質量を生成する機構として、南部のノーベル賞論文で示された「対称性の力学的破れ」の機構を採用し、ヒッグス粒子を複合粒子として生成する模型、「ウォーキングテクニカラー模型」、の説明を致します。

ヒッグス粒子を素粒子とする通常の理論(「標準模型」)では、対称性が自発的に破れていない
(質量のない)真空でヒッグス粒子の質量が虚数になる(「タキオン」)ように(不安定な真空として)設定し、この真空よりも対称性の破れた(質量のある)真空をエネルギーが低く(安定に)なるように人為的に設定して、(人為的に導入したタキオン質量を起源として)全ての質量を「説明」します。

これに対し、南部の機構ではゼロ質量のフェルミオンとその反粒子のペアー(ボソン)が強い引力のためペアーのエネルギーがゼロより低いマイナスの状態(相対論ではボソン質量の2乗がマイナス、すなわち虚数質量、タキオン)が生成され、もとのゼロ質量フェルミオンの真空が不安定となって、フェルミオンが質量(超伝導では「ギャップ」に対応)を獲得する安定な(対称性の自発的に破れた)真空へ移行します。こうして、標準模型で非物理的に導入されるタキオンは、南部の機構では強い引力の結果として物理的効果として説明されます。その結果として、ヒッグス粒子は素粒子ではなくペアーの複合粒子として2次的な生成物ということになります。

実は、現実の物質質量の起源である核子(陽子、中性子)の質量の99%は、すでに南部の機構に従うクォークの力学(QCD)においてゼロ質量のクォークから生成されることが分かっています。核子の質量の残り1%はクォークのヒッグス粒子起源の質量によるものですが、この講演ではこれも南部の機構による可能性を説明します。これは当初QCDの類推で導入されたもので、「テクニカラー」と呼ばれる理論ですが、最初に提唱された形では様々な困難があり、現在では我々が30年前に提唱した「ウォーキングテクニカラー」がそれら困難のない模型として一般的です。

理論的には強結合の理論を解くのは大変ですが、我々は格子ゲージ理論の高性能計算機シミュレーションによる第一原理的計算でこの模型の帰結を解明して来ました。また、ヒッグス粒子を発見したLHC実験は、今年から再開されてさらに衝突エネルギーが高く精密で広範囲の結果を得ることが期待されています。「ウォーキングテクニカラー」は複合ヒッグス粒子以外の多くの複合粒子を予言します。このLHC実験でいよいよその最終的検証ができる時代が到来したことになります。
 

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