• ページの本文のみをプリントします。ページの設定にて背景色とイメージを印刷する設定にしてください。
  • ページ全体をプリントします。ページの設定にて背景色とイメージを印刷する設定にしてください。

2012夏季企画展示「楽器のはじまり ~その素材から」

【2013年4月27日】

期間:8月5日(日曜日)~9月7日(金曜日)
会場:民族資料博物館 多目的室、エントランス展示

中部大学民族資料博物館 2012夏季企画展示 「楽器のはじまり ~その素材から」解説

<骨>

楽器のはじまりは、古くは人類の祖先とされる原人の存在した旧石器時代にさかのぼると考えられている。クロマニヨン人(約4万~1万年前まで)、ネアンデルタール人(約2万数千年前まで)の遺跡からは、鳥の骨で作られたフルートが出土されている。これらは、神官としての役割をもつシャーマンが身につけ、動物の力を借りて家族や集落の守護を自然のカミに祈るためのようなものであったと考えられている。翼を持ち、空を飛ぶ鳥は、死者の世界につながる特別な存在であり、骨の笛も単に音を出すためであるばかりでなく、身につけて悪霊を払うためのものとされていた。こうした楽器そのものを象徴的なものとする考えは南米の先住民の生活文化にも共通している。当館の「骨製のケーナ」(メキシコの笛)もその一例である。

<葦>

人間は、生活の周囲にある自然の素材のなかから楽器に適したものを選び出してきた。水辺に生息する葦は、筒状のかたちをしている繊維質の植物で、内部が空洞で細長い茎を持つ。葦による笛(パンパイプ)は、長短の長さを組み合わせて一体の笛としている。古代のギリシャ神話のなかで、パンの神はこの笛を用いているし、また一方で、南太平洋の島々の人びとや、ペルシャや南米の民族楽器にも古くからみられる。中国や日本においては、シルクロードを経て大陸の舞楽が雅楽として継承されており、雅楽のなかの「笙」が葦笛の発達したかたちとも考えられている。

<貝>

水のある場所に人びとは村を作り、国を作る。海辺に生活する人びとにとっては、また貝も音を出す打楽器として用いられてきた。「ほら貝」は、貝の穴に手を入れて音色を調節するホルンのように抱えて音を吹き出す。また巻き貝もその年月の経過によって刻まれた連続した表面の刻みを二枚向き合わせて擦るようにして音を出す。

<木>

人間は、「祭り」において自然に感謝し、守り神である祖先への畏怖を抱き祈ってきた。祈りに捧げる歌や踊りの伴奏用に大きな音が出る楽器を自分たちの手で作り出すことを考えた。その一つが太鼓である。もとは一本の木から作り出していたという民族楽器は多くの国の事例にみることができる。当館の資料のうちでは、パプアニューギニアの「ガラムート(連絡用太鼓、割れ目太鼓、スリッドラム)」、アフリカの「トーキングドラム」、リトアニアの「カンクレス」などの原型については一本の木をくり抜き、削り、彫刻が施された。世界各地に伝わる樹霊に関する神話や土着信仰の存在からすると、その木から作る楽器そのものも神聖な役割を持つものとして扱われていた様子を想像することもできる。

例えば当館の事例では、ガラムートは木を横たえてくり抜き、太鼓の左右にワニの彫刻が彫られている。彼らの神話では人間はワニから再生して生まれ変わると信じられ、強い生命体である精霊の象徴として表現されているところにもよく示されている。

また、木を平たく加工した打楽器として、オセアニアには打ち鳴らす「うちならし棒(ミュージック・スティック)や、「ブーメラン」を用いて音を出し、ひもを通して空中で回旋させて音を出す「ブル・ローワー(うなり木)」がある。この音は祖先の霊の声とも喩えられている。

<竹>

繊維質で縦に裂けやすい竹は、その性質を利用し、まっすぐに切り落としてさまざまな工芸品に用いられている素材であるが、民族楽器においても活用されている。当館の「ジョゲブンブン」は、東南アジアの民族楽器で、竹を割り、長短の長さに順にそろえて木琴のような構造をした打楽器、竹琴である。

<ひょうたん>

音を響かせるためによく適している木の実として、ひょうたんを使った事例も世界のさまざまな国でみられる。アフリカのバラフォンは、平たい板を並べた木琴型の打楽器で、裏側にひょうたんを並べ付け響かせて音を出す。トルコのタールは中央アジアや東アジアへ普及した弦楽器の原型とも考えられており、胴体に大きなひょうたんを用いる。アフリカのシェケレは、ひょうたんをビーズの飾りで覆い、振り下ろす際の摩擦音で音を出す。アメリカのマラカスは、ひょうたんの内部に小さな球を入れて音を出す。

<皮>

太鼓には、音を響かせるために、表面に動物の皮を用いるものも多い。

当館の資料では、パプアニューギニアの動物の皮を張った砂時計型の太鼓「クンドゥ」(オオトカゲ、蛇)、アフリカ・マリのトーキングドラム(牛)、中国、雲南省の象脚鼓(牛、鹿)がある。

民族楽器には、その土地にゆかりがあり、神聖視されている動物の骨や皮、毛があますことなく用いられていることが多い。それは、単に身近であるからだけではなく、その動物の生命力すべてを取り込みたいとする人びとの願いであった証である。

<甲羅>

動物の甲羅を用いた当館の事例では、ペルーの「チャランゴ」がある。ギターのような弦楽器だが、共鳴体としての胴体にアルマジロの皮を使う。またアフリカでは、亀の子どもの甲羅にビーズの飾りを付けて、擦り合わせて音を出す。

<角>

南米の「角笛」は、まるで蛇がとぐろを巻いているかのように、二重、三重の形に巻き上がった水牛の立派な角を使い、ホルンのように吹いて音を出す民族楽器である。アンデスの村祭りで闘牛が始まりのときを知らせるために使われる。カラフルな色の布のリボンなどで飾ってあるので、一見鋭く迫力のある角が祭り用の楽器として扱われているとわかる。

<土>

すでにある自然のものをそのまま使うだけでなく、人間は自分の手で自分たちの理想とする世界に交信できる楽器を、土や水や火を利用して作り出そうとした。当館の事例では、古代アメリカの土偶「笑う顔の形象オカリナ」は、楽器そのものとして使うというより、もともと死者

への供物ではなかったかと考えられている。つまり、実際に音を出すためのものではなく、象徴の意味として人間の姿と楽器のかたちが融合した理想形として作られているのである。

付記:主な参考文献

○民族楽器関連:浜松市楽器博物館各種報告書、『人間と音楽の歴史』音楽之友社、藤井知昭(監)『語りと音楽 民俗音楽叢書3』東京書籍株式会社 1990、藤井知昭(監)『民族とリズム 民俗音楽叢書8』東京書籍株式会社 1990、土取利行『壁画洞窟の音』青土社 2008
○宗教と祭式関連:E.カッシーラー著 木田元訳『シンボル形式の哲学』岩波 1999、E.H.ゴンブリッチ著 二見史郎ほか訳『棒馬考 -イメージの読解』勁草書房 1994、M.エリアーデ著 風間敏夫訳『聖と俗-宗教的なるものの本質について』法政大学出版 1969、J.E.ハリソン著 佐々木理訳『古代芸術と祭式』筑摩書房 1964、J.フレイザー著 永橋卓介訳『金枝篇』岩波 1951

中部大学民族資料博物館

1Fエントランス展示

昨年に新規寄贈資料を展示

体験コーナー

常設展示の一角に

楽器展示2

学校見学で

期間中は3日間におよぶ夏のオープンキャンパスの開催や、海外交流の学生見学、また夏休みとあってご家族連れなど多くの皆様に触れていただきました

楽器体験

Adobe Readerのダウンロードサイトへ
PDFファイルをご覧いただくにはAdobe Readerが必要です。Adobe Readerがインストールされていない場合は、左のアイコンをクリックして、ダウンロードした後インストールしてください。
Adobe ReaderをインストールするとPDFファイルがご覧頂けます。詳しくは、アドビシステムズ株式会社のサイト新しくウィンドウが立ち上がりますをご覧ください。

ページの先頭へ