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小さな島の大きな問題(2) 中国海島保護法 国際関係学科(准教授:加々美 康彦)

【2010年4月30日】

中国の批判

2010年1月7日、中国外務省の姜瑜副報道局長が、定例記者会見の場で、日本の国土交通省が沖ノ鳥島などに港湾を整備するため2010年度予算案に計7 億円を計上したことに関し、「沖ノ鳥島を基点に、広範囲の海域の管轄を主張しようとの日本のやり方は国際法に反する」と批判したとの報道がありました。姜副局長は「国連海洋法条約によると、沖ノ鳥島の地理条件では排他的経済水域と大陸棚を設定できない」こと、また「人工の施設をつくったところで、その法的地位は変えられない」とも述べたと言われます(2010年1月7日付け共同)。

では、どのような点で「日本のやり方は、国際法に反する」のでしょうか?姜副局長の発言を簡単に整理すれば、沖ノ鳥島は国連海洋法条約第121条1項にいう「島」ではなく、3項にいう「岩」であるということになります。したがって、「岩」である沖ノ鳥島は、たとえ港湾施設を作っても「岩」のままであり、 EEZを持てないという理解でしょう。

ところが、国連海洋法条約はそれほどシンプルではありません。既に本コラム(1)で見た条約第121条の規定は、実は相当曖昧に規定され、多様な解釈を可能にしており(条文起草時に諸国の妥協を引き出すために玉虫色の解決がはかられたからです)、EEZと大陸棚を持てる島かそうでない岩かの基準は決して明確ではありません。学説もそれを認め、その基準は今後の国際実行の積み重ねの中から次第に明らかにされていくだろうと考えられています。

その上で、「日本のやり方」を条文に当てはめてみましょう。80年代末に沖ノ鳥島で実施された工事は、人工島を建設するものではなく、「自然に形成された陸地」を波の侵食から守る護岸工事でした。それは工事前と同様に「水に囲まれて」いる状況を保つもので、島の頭頂部には手をつけていません。その結果、今も昔も「高潮時においても水面上にある」ことに変わりはないので、1項の島であると言うことができるでしょう。

また3項の条件についても、現時点で「人間の居住」又は「独自の経済的生活」が無くとも、それらを「維持することのできる」可能性が示せれば足りるとの解釈が一般的であることに照らせば、漁業活動その他の経済活動のデータが蓄積していけば、島と主張し続けることは十分可能でしょう。むしろ、現時点で岩と断定することの方が難しいのではないでしょうか。ちなみに、これまで自国のある領土を第121条3項の岩だと明示に宣言した例は、英国のロッコール島くらいしか見あたりません。フランスは、高潮時に水没する環礁(バサダインディア)にさえEEZを設定しています。

沖ノ鳥島などでの港湾施設の整備についても、港湾があるから島だというような、島の地位を「獲得」するために整備されるわけではなく、むしろ今の島の地位をより確かなものにするために利活用の基盤を整備するものです。だとすれば、それがただちに国際法に反するものとまでは言えないでしょう。そもそも島国日本が、離島という小さくとも大事な国土を守り、活用していくこと自体は決して否定されるべきものではありません。

中国海島保護法

そうした中で興味深いのは、姜副局長の発言の約2週間前(2009年12月26日)に中国全人代常務委員会第12回会議で採択され、2010年3月1日に施行された「中華人民共和国海島保護法」です。5年ほど前に上程され、ようやく通過した同法は、国連海洋法条約第121条1項にいう島の管理を念頭に置き、1万を超えるとも言われる中国の有人・無人の離島について、島とその周辺海域の資源開発、海洋権益の保護を目的とするものです。「海島保護計画」を立案して、その利活用の調整、自然環境の保全などを進めることなどが規定されています。

実は、同法では領海(ということは、同じくEEZの)基点の保護に必要な建設工事を行う可能性にも触れられています(第37条など)。だとすれば、中国の新法も、沖ノ鳥島の港湾整備も、実は根は同じということになります。しかしながら、かの国は良くて、日本は「国際法に反する」理由は、残念ながら(というか、当然ですが)法律には示されていません。

島と海の管理のためのビジョン

こうした小さな島をめぐる争いですが、真に論じられるべきなのは、もっと大きな問題です。すなわち<島か岩か>という出口の見えない争いではなく、国連海洋法条約によって与えられることになった広大な海域を管理するために、国際社会はどのようなビジョンを持つべきかということです。残念ながら国連海洋法条約は、それについての明確な答えを用意してくれませんでした。

そもそもEEZという広大な海域は、沿岸国が排他的に開発して利益を独占するためだけに与えられたわけではありません。絶海孤島には希少な生態系が存在し、その周辺海域もしかりです。その海洋生態系の管理は今や国際社会の優先課題です。事実、来る生物多様性条約第10回締約国会議(COP 10)においても重要な議題として話し合われる予定です。その意味では、先の中国の新法は、有人・無人にかかわらず島とその周辺海域の生態系を保全するという視点が貫かれており、これは一つの優れたビジョンを示すもので、わが国も学ぶ点が多くあるでしょう。

実は2009年12月に、わが国でもようやく「海洋管理のための離島の保全・管理のあり方に関する基本方針」が閣議決定され、はじめて無人島を含む離島とその周辺海域の生態系保全という観点からの施策が含められることになりました。このように国家レベルで離島とその周辺の海洋管理の方向性を示したのは、日中両国が初めてではないでしょうか。今後、国際社会において両国に求められるのは、対立よりも世界をリードしていくことではないかと思います。

2010年4月30日

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