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オバマ新政権がスタート 2008年大統領選挙と米新政権の課題(国際文化学科 教授:河内信幸)

【2009年2月3日】

1月20日、零下2度の厳しい寒さのなか、オバマ新大統領の就任式が行われた。連邦議会議事堂付近のワシントン中心部には、史上最大の約200万人の聴衆が集まり、オバマは、かつてリンカーン大統領が用いた聖書に手を置き、第44代大統領に就任する宣誓を行った。初めてのアフリカン・アメリカン系大統領に寄せる期待感は大きく、各種の世論調査では、約8割の国民がオバマ政権の誕生を歓迎している。これは、就任時としては異例の高い支持率である。

2008年大統領選挙の特徴

アメリカの大統領選挙は、直接選挙のように思われているが、厳密には間接選挙である。今回の大統領選挙は昨年11月4日に一般投票が行われ、民主党オバマの当選が決まったと伝えられたが、実際には12月15日に選挙人投票が行われ、本年1月5日の開票を経て正式に当選者が確定した。一般投票以外はあまり報道されないが、アメリカの大統領は、異例の長い選挙戦とともに、このような独特のプロセスを経て決まる。

今回の大統領選挙は、従来のジンクスを覆すことが非常に多く、何回も取材を重ねてきた専門のジャーナリストも、オバマではなく、ヒラリーの当選を予想していた。たとえば、これまでの大統領選挙では、本選挙の前年末に最も選挙資金を集めている候補者が当選を果たしており、今回2007年末の時点では、ヒラリーが資金面でオバマを大きく引き離していたのである。しかも、オバマはアフリカン・アメリカンであり、ヒラリーと指名争いでデッドヒートを繰り返したことも、民主党に不利な材料になるのではと懸念されていた。

オバマの当選は、ひとことで言えば「グラスルーツ・ムーヴメント」(grassroots movement)の勝利であり、共和党の「グラスルーツ・ポリティクス」(grassroots politics)を上回る力を民主党が結集させたためである。たとえば、大学生の政治参加も著しく、夏休みを返上してキャンパスに戻り、オバマ支持のビラ配りを行った学生も多かったと伝えられる。このような“草の根”の運動は、有権者登録を4000万人以上も増やすことに貢献し、オバマ陣営は、200ドルほどの小口献金を中心に、6億6000万ドル(マケイン陣営の約2倍弱)にも上る選挙資金を集めた。

しかも、このような“草の根”の運動に、従来のようなメディアではなく、インターネットが圧倒的に有効な媒体となり、動画サイトの「ユーチューブ」も、登場後初めて大統領選挙で大きな力を発揮したのである。

オバマ政権―高まる期待感

2008年のアメリカ大統領選挙は、民主党の候補指名をめぐって激しい戦いが繰り返され、初めてアフリカン・アメリカンのオバマが当選を果たした。 2007年末の段階では、ヒラリーが圧倒的に有利と言われていたことを考えると、オバマの当選は、人種の壁を超える動き、いわゆる「ポスト・レイシャル」(post racial)のムードを予感させるものがある。

2007年夏の『ニューズウィーク』誌などの調査では、約8割の国民が「アメリカは悪い方向に向かっている」と答えており、格差社会の広がりやイラク戦争の泥沼化を国民の多くが懸念していた。しかも、2007年夏から深刻化したサブプライムローン問題に加えて、大統領選挙が終盤に差し掛かった頃、リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した金融危機が一挙に表面化したことも、ブッシュ政権に対する批判をさらに高め、民主党とオバマ陣営には強い“追い風”となったのである。

アメリカは、約30年後に白人が少数派になり、黒人やヒスパニック(ラテーノ)が多数派となることが確実視されている。このような他民族化の加速に向けて、オバマ政権が壮大な実験のスタートなるか、新政権への期待感は、経済危機の深刻化とも相俟って、ますます高まってきたことは確かである。

オバマ政権の特徴

オバマ新大統領は、ブッシュ政権のゲイツ国防長官を引き続き留任させ、安全保障担当補佐官に共和党寄りのジョーンズを据えるなど、まず共和党との超党派的な連携を重視する姿勢を示した。しかも、候補指名を争ったヒラリーを国務長官に要請したことからも分かるように、民主党内で地盤のある、かつてのクリントン政権の人脈から閣僚を多数登用する方針をとった。要するに、オバマ新政権は、ネオコンの台頭などで影の薄かった共和党内の国際協調主義者やリアリストと、かつてクリントン政権内で強かった「中道派」を結集させた、超党派の中道派政権としてスタートしたと考えられるのである。

しかしオバマ政権は、1980年代のレーガン政権から続いてきた、共和党主導の政治や経済の方向を大きく変える可能性がある。それは、規制緩和や「小さな政府」からの脱却であり、マネタリズムからケインズ的な公共・財政政策へと転換を図るということであり、現代の金融・経済危機が1930年代の大恐慌と比較して語られ、当時のニューディール政策とのアナロジーで論議されているためである。

ところが、イラク戦争やアフガン情勢が不透明であり、「100年に一度の経済危機」が社会不安を蔓延させている今、オバマ政権の新しい政策が実効あるものになるかどうか、1兆ドルを超える膨大な財政赤字を見ただけでも、困難な課題があまりにも多い。

「グリーン・ニューディール」の方向性

オバマは、すでに選挙戦のなかで、インフラ整備の投資に主眼を置いた、新しい「グリーン・ニューディール」の必要性を強調しており、連邦政府が積極的な役割を発揮し、格差の拡大で分断された社会の統合を図る方向性を示した。国連環境計画の報告書でも、再生可能エネルギーへの投資が2020年に世界で 3400億ドルまで増加する展望を示しているが、社会インフラへの大規模な投資を行い、“グリーン内需”の拡大と雇用の創出を実現することは、それほど簡単ではない。

ピュー・リサーチ・センターなどの世論調査では、ここ20年間に“持てるもの”と“持たざるもの”に分裂しているとの回答が約50%に達しており、サブプライムローン問題と金融危機の深刻化は、「小さな政府」と規制緩和のリスクを再認識させることになった。ブッシュ政権は、最大7000億ドルの公的資金を投入する金融安定化法を何とか成立させ、実体経済に深刻な影響の及ぶことを回避しようと努めたが、金融危機は、20世紀の経済発展を牽引してきた自動車産業をも直撃し、今や“ビッグ・スリー”は経営破綻の瀬戸際に立たされている。

オバマは、就任前に7750億ドル規模の景気対策を提案し、失業率が2桁になる事態を回避するとともに、民間部門主導の景気回復を実現することにより、 2010年までに300万から400万人の雇用を創出する展望を示している。これは、ローマー次期大統領経済諮問委員会(CEA)委員長らと協議した上の試算であるが、失業者向け保険給付の延長、勤労世帯の95%への減税、州政府への財政支援などにより、1兆ドルを大幅に超える財政赤字が何年も続くことを覚悟しなければならない。アメリカは、クリントン政権下の1998年、29年ぶりで財政黒字を実現したにもかかわらず、ブッシュ政権とともにオバマ新政権も、しばらく財政赤字大国の道のりを歩むことになる。

オバマ新政権の外交姿勢は、経済危機の世界的な広がりもあって、ブッシュ政権の単独行動主義から転換し、国際協調主義の姿勢へと急速に移行するであろう。しかし、イラク・アフガン情勢やイスラエル・パレスチナ紛争は深刻の度を増しており、しかもロシアの大国化とグルジア紛争などで米ロ関係が不安定になっているため、外交経験の乏しいオバマ新大統領は厳しい局面に追い込まれる可能性もある。

2009年2月3日

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