大西素子研究室

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プロテインホスファターゼ入門

プロテインホスファターゼとは?
プロテインホスファターゼとはリン酸化タンパク質を脱リン酸化する酵素です。
そして、逆の反応を触媒する酵素がプロテインキナーゼです。
この2つの酵素の働きにより、生体内のリン酸化の活性レベルが調節されています。その概略を下の図に示します。
 
 
 
プロテインホスファターゼは、アミノ酸残基に対する特異性から、セリン/スレオニンホスファターゼとチロシンホスファターゼの2つのグループに分けられます。
さらに、これに加えセリン/スレオニン/チロシンホスファターゼという小さなグループが存在します。
プロテインホスファターゼの細胞での主な機能は、糖代謝、平滑筋収縮、細胞周期、DNA複製、転写、翻訳、細胞接着、細胞の活性化・分化などの制御、生体の免疫系や神経系などの維持です。
この中で、大西研究室では細胞の分化、特に破骨細胞分化におけるプロテインホスファターゼの機能の解析も行っています。
 
プロテインホスファターゼ2Cとは
•セリン/スレオニンホスファターゼの特徴
PP2Cはその科学的特徴からセリン/スレオニンホスファクターゼ、チロシンホスファターゼ、セリン/スレオニン/チロシンホスファターゼのうちのセリン/スレオニンホスファターゼに分類されています。
セリン/スレオニンホスファターゼ(Ser/Thrホスファターゼ)は化学的性質からPP1、PP2A、PP2B、PP2Cの4つに分類されています。
これら各4種類のセリン/スレオニンホスファターゼの働きは次の通りです。
PP1は、幅広い組織分布と細胞内分布を示し、主に糖代謝、細胞運動、細胞周期、DNA複製、転写、翻訳、細胞接着など広範囲な細胞機能を制御しています。
PP2Aは、すべてのSer/Thrホスファターゼの中で最も広い特異性を示し、真核細胞に普遍的に存在し、主に代謝調節、シグナル伝達、DNA複製・転写、細胞増殖などの広い細胞機能に関与しています。
PP2Bは、中枢神経に多量に存在するCa2+/カルモジュリン依存性プロテインホスファターゼです。
PP2Bは神経伝達物質の放出促進などに関与していることから、免疫抑制薬の標的になっています。
PP2Cは脳で比較的高い活性を示し、触媒活性発現にMg2+もしくはMn2+を必要とします。
そして、主な働きとしては、DNA修復機構、ストレス応答、シグナル伝達、細胞増殖などの細胞機能の制御に関与しています。
•種の違いによるPP2C遺伝子の存在
哺乳類や酵母など種の違いによりPP2C遺伝子の発見数は様々です。
出芽酵母、キイロショウジョウバエ、線虫、アイスプラントなどの生物においても発見されている、PP2C遺伝子の数は異なります。哺乳類におけるPP2C 遺伝子も、PP2Cαをはじめいくつか発見されています。

哺乳類におけるPP2Cの遺伝子の数は他の生物種と比べるとあまり多いとはいえません。

したがって、このことから哺乳類において、現在確認されているPP2C以外にも多くのPP2C遺伝子の存在の可能性が考えられます。
•PP2Cファミリーについて
下表のように、複数のPP2Cによって、哺乳類のPP2Cファミリーが構成されています。

下表に、PP2Cの各々が持っている名称の一部を示しました。
例えば、PP2CαであればPPM1Aという名称で呼ばれています。
また、下表の右にはそれぞれヒトPP2Cのアミノ酸の数を示します。


 
また、ヒトPP2Cαとその他のPP2Cとの相同領域は下の図のようになっています。色が付いている領域がPP2Cαと同じアミノ酸領域です。
 


•プロテインホスファターゼ2Cα(PP2Cα)とは
プロテインホスファターゼ2CのひとつPP2Cαは、MAPキナーゼファミリーに属するストレス活性化MAPカスケード(*)を脱リン酸化することにより、不活性化します。
*MAPキナーゼとは

<生物種を超えて保存されるMAPKカスケード>

MAPキナーゼカスケードは、MAPキナーゼ(MAPK)、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)により構成されています。

このカスケードは酵母や植物、ショウジョウバエや人間まで普遍的に存在している細胞内情報伝達機構です。
この機構は細胞増殖、細胞分化、アポトーシスなどの細胞応答に関わる重要な役割を担っています。

<MAPKKファミリーの特徴は二重特異性キナーゼ>

MAPKKはMAPKのSer/ThrとTyrの両方をリン酸化する能力を持っています。
この二つのアミノ酸をリン酸化する能力を持ったキナーゼを二重特異性キナーゼ(dual specificity kinase)といいます。
このキナーゼの種類は少ないので、これはMAPKKファミリーの特徴であり、MAPKカスケードの特徴であるといえます。

MAPKKがMAPKのリン酸化する場合、MAPKKはMAPKのPループと呼ばれる領域内に存在するThr-X-TyrのThrとTyrの両方をリン酸化します。
MAPKは、この両方がリン酸化されることによりを活性化します.
•様々なPP2Cの働き
PP2Cファミリーの中で働きのわかっているものについて下記に示します。

PP2Cα(アルファ)は環境ストレスや炎症性サイトカインを含む細胞刺激に応答して活性化されるSAPKシグナル伝達経路を選択的に抑制します。また、細胞周期のG2/M期での停止およびアポトーシスに関与します。

PP2Cβ(ベータ)はMAPキナーゼカスケード上流のTAK1を直接脱リン酸化して不活性化し、SAPKシグナル伝達経路の活性化を選択的に抑制します。

PP2Cδ(デルタ)は核に局在し、p53の活性化を抑制します。

PP2Cε(イプシロン)はPP2Cβと同様、TAK1と会合しTAK1の脱リン酸化し、JNKおよびp38の活性化を抑制します。

CaMKP(POPX2)とCaMKP-N(POPX1)は互いに相同性が高く、と高いホモロジーを示す遺伝子産物です。はCa2+/カルモジュリン依存性キナーゼを特異的に脱リン酸化します。

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