町田千代子研究室

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研究紹介

研究内容
 

球上における植物の生育は、人間が生きる環境にとって非常に重要です。葉の初期発生分化過程においては、葉の表と裏の細胞分化の確立が重要なステップとなっています。もし、表と裏が決まらない時には扁平な葉(写真左)ができずに棒状の形(写真右)になってしまいます。

町田研では、葉の表と裏を決定づける鍵遺伝子(AS1, AS2)を同定し、それらの遺伝子発現制御の分子過程を明らかにしました。

 

第一に「植物の葉の発生分化の分子機構の解明の研究」です。

茎頂分裂組織と葉原基のどの細胞で起こっている分子反応なのか?細胞内の核のどのコンパートメントで起こっている分子反応なのか?分化から分裂へどのような細胞周期進行制御が働いているのか?を明らかにすることが今後の課題です。発生分化の過程では、エピジェネティックな制御が重要です。図に示すように私達は、AS1-AS2が葉の裏側化に関わるETT/ARF4遺伝子座のDNAメチル化を制御しいることを見いだしました。このメチル化の制御のメカニズム(下図)を明らかにすることにより、植物に特徴的な新しいエピジェネティックな制御機構が明らかになる可能性があります。




第二に、「和食に合う上質のワインをつくるためのウイルスフリーブドウ樹をつくる研究」です。

おいしいワインを夢見て、ウイルス検査、ブドウ樹の茎頂培養を行い、皆でブドウ樹を一生懸命育てています。既に、町田研では、茎頂培養から中部大学第一号のブドウ樹が誕生しました。また、はじめてウイルス非感染甲州から収穫した(温室)ブドウを用いた試験醸造の結果、明らかに、良質のワインができました。今後は、圃場のウイルス非感染甲州から収穫したブドウを用いた試験醸造をめざしています。山梨県の農園とも連携しています。ブドウ樹の研究は、「中部大学ワイン・日本酒プロジェクト」の共同研究として推進しています。

中部大学ワイン・日本酒プロジェクトのHP



このぶどうを使って、2016年、初めてワインを醸造しました。世界で初めてできた、糖度の高い甲州ぶどうを用いて醸造したワインです。

植物の葉の発生・分化の研究の紹介

地球上には様々な植物が生育し、実に多様な姿をしている。葉は多様な形をしてはいるが、その基本的形態は、左右相称で扁平である。植物はまず発芽すると、主軸である頂部-基部軸に従って芽は地上部に、根は地下部に向かって成長する。また、葉は、主軸である頂部-基部軸に対して、新たにつくられる軸にそって成長する側生器官である(図1A)。すなわち、主軸に対して,基部先端部軸(proximal-distal axis)と中央側方軸(medial-lateral axis)の二つの軸にそって成長し、その過程で、向軸背軸(adaxial-abaxial axis)という、葉の裏が明確に性格づけされる。植物では、葉の表側は主軸側に向かっているということから向軸側といい、葉の裏側を背軸側という。裏表のある扁平で左右相称的な葉の基本的な形態形成は、おそらく、すべての植物において共通であろう。そして、この過程における、わずかな分子の働きの違いによって、形の多様性がもたらされるのであろう。私達は、このような葉の形成過程にかかわる遺伝子の機能解析を行っている。


        図1 植物の軸形成、葉の左右相称性と扁平性

Ⅰ. シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的研究

卒の中では、シロイヌナズナの全ゲノム配列が2000年12月に最初に決定され、約2万5千の遺伝子をもつことがわかった。現在では、その遺伝子の多くの情報が蓄積され、それらの情報は世界の研究者が共通に使うことができ、加速度的に研究が進んでいる。シロイヌナズナを用いて、植物の葉の基本的な構築過程を明らかにできると考えられる。

(1) 葉は茎頂メリステムからどのように発生・分化するか?

葉の分化過程では、茎頂メリステムの未分化な細胞から、葉という分化した細胞に転換しつつ、さかんな細胞分裂を繰り返し、固有の葉の形が形成される。葉が発生・分化する時には、まず、茎頂メリステムで機能する遺伝子の機能を抑制することが必要である。  我々はまず、シロイヌナズナの葉の左右相称性と扁平性に異常があるasymmetric leaves1 (as1)asymmetric leaves2 (as2)変異体を解析し、AS1AS2遺伝子を同定し、解析した。その結果、AS1AS2遺伝子は葉の発生過程において、茎頂メリステムの維持に関わっていると考えられる遺伝子群のひとつであるclass 1 KNOX ホメオボックス遺伝子の転写抑制因子として機能すること(直接か間接かは不明であるが)がわかった。このような抑制機構は、葉の細胞の分化状態の維持に必要であり、葉の左右相称的で扁平な形態形成にとって重要であろう(図2

(2) 扁平で左右対称な葉の形成

シロイヌナズナの野生型の葉は、一見して左右相称的な形に見えるが、それは、第一に、葉身の鋸歯とよばれる葉の周縁部の切れ込みが基本的に左右相称的であること、第二に、中央に、太い主脈があり、二次脈が両側方にほぼ左右相称的にはり巡らされて見えることによる(図1B)。as1、as2変異体では,葉脈、鋸歯ともに左右非対称であった(図2)。また、葉脈パターンの形成を葉の発生過程をおって調べたところ、最初に形成される一次脈が検出されるのが、1~1.5日野生型より遅れ、二次脈への分岐に異常が認められた。これらの結果は、AS1、AS2遺伝子が葉の発生の早い時期に、すでに左右相称的形成に機能していることを示唆している。  野生型の葉は扁平であるのに対して、as1、as2 変異体では、葉は、下向きにカールしている(図2)。一方、AS2を過剰発現させると、葉は上向きにカールし、向軸側の表皮細胞の数は減少していた。このようなAS2の機能発現においてAS1は必須であった。また、胚発生においては子葉原基、葉原基が形成される過程で、向軸側の原表皮細胞で転写物の蓄積が認められた。これらの結果は、AS1、AS2が、向軸側に特異的な中央から側方方向の成長制御に関わり、扁平な葉の形成を調節していることを示唆している。

         図2 as1とas2変異体の表現型

植(3) 葉の裏表はどのようにしてつくられるか?

葉の裏表の形成には、小さなRNAが深く関わっている。葉原基形成初期にはPHABULOSAPHB)、 PHAVULUTAPHV)が表側で機能し、 FILAMENTOUS FLOWERFIL, KANADI1,2,3KAN1,2,3)が裏側で機能して、表と裏のある葉が形成される。また、microRNA165/166PHBPHVmRNAの分解に関わり、裏側でPHBPHVが発現しないように制御してい る。一方、葉の表側では、trans-acting siRNAETTINmRNAの分解に関わり、葉の裏側化に関わる遺伝子FIL等が発現しないように制御している。私達は、AS1AS2が、microRNA165/166による制御系に対しては負に、trans-acting siRNAによる制御系に対しては正に制御しているという結果を得ている。しかし、どのように、これらの小さなRNAを制御しているのかは、まだまったくわかっておらず、今後明らかにすることが重要であると考えている。ける、わずかな分子の働きの違いによって、形の多様性がもたらされるのであろう。私達は、このような葉の形成過程にかかわる遺伝子の機能解析を行っている。

(4) AS1とAS2タンパク質の構造

AS1とAS2は葉が分化する初期過程で機能していると考えられる。AS1はMybリピートをもつ転写因子様のタンパク質であり、AS2は植物界にしかない新奇なドメイン(AS2/LOBドメイン)構造をもつタンパク質ファミリー(AS2/LOBファミリー)のメンバーである(図3、4、5、表1)。AS2/LOBドメインは植物特有であるが、このドメイン構造の機能を明らかにすることにより、植物特有の発現制御機構がわかるかもしれない。私達は、AS1とAS2がどのような因子とともに、直接にはどのような因子を制御しているのかを明らかにしたいと考えている

 図3 シロイヌナズナのAS2とイネのAS2/LOBファミリータンパク質とのアミノ酸配列の比較

 

シロイヌナズナのAS2とイネのAS2/LOBファミリータンパク質のAS2ドメインのアミノ酸配列の比較。イネのAS2/LOBファミリータンパク質のうち20個のメンバーを示した。このうち半分以上のタンパク質で保存されているアミノ酸残基を白抜き文字で示した。C-motifのシステイン残基を青で、ロイシンジッパー様の構造に保存されているアミノ酸残基を緑で示している。右の数字はこの位置のアミノ酸残基番号を示している。イネの場合にも、シロイヌナズナと同様に、Class Ia、Class Ib、Class IIに分類される。

 

 図4 AS1とAS2タンパク質の構造。

図5 シロイヌナズナのAS2及びASLタンパク質の進化系統樹。

1. ASL蛋白質をコードするESTクローンが単離された植物

コケ植物

 

ヒメツリガネゴケ (Physcomitrella patens)

シダ植物

 

ミズワラビ (Ceratopteris richardii)

裸子植物

 

スギ (Cryptomeria japonica)

   

テーダマツ (Pinus taeda)

被子植物

双子葉植物

シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana)

   

サトウダイコン (Beta vulgaris)

   

キャベツ (Brassica oleraoea)

   

ハクサイ (Brassica rapa)

   

ピーマン (Capsicum annuum)

   

スイカ (Citrullus lanatus)

   

スイートオレンジ (Citrus sinensis)

   

ハギクソウ (Euphorbia esula)

   

キダチワタ (Gossypium arboreum)

   

リクチメン (Gossypium hirsutum)

   

ダイズ (Glycine max)

   

ヒマワリ (Helianthus annuus)

   

アサガオ (Ipomoea nil)

   

レタス (Lactuca sativa)

   

ミヤコグサ (Lotus japonicus)

   

キバナルピナス (Lupinus luteus)

   

トマト (Lycopersicon esculentum)

   

タルウマゴヤシ (Medicago truncatula)

   

バルサムポプラ (Populus balsamifera)

   

ヨーロッパヤマナラシ (Populus tremula)

   

モモ (Prunus persica)

   

ニセアカシア (Robinia pseudoacacia)

   

ジャガイモ (Solanum tuberosum)

   

ブドウ (Vitis vinifera)

   

ヒャクニチソウ (Zinnia elegans)

 

単子葉植物

クサビコムギ (Aegilops speltoides)

   

オオムギ (Hordeum vulgare)

   

イネ (Oryza sativa)

   

ライムギ (Secale cereale)

   

モロコシ (Sorghum bicolor)

   

コムギ (Triticum aestivum)

   

トウモロコシ (Zea mays)

II. コチョウランの分子遺伝学的研究

コチョウランの花は華麗で気品がある。観賞用はもちろんであるが、形態学的にも興味深い植物のひとつである。単子葉であるにも関わらず、コチョウランの葉は、一見、双子葉のような形をしているからである。このような形の葉の形成に関与する遺伝子の単離は、きわめて興味深い。この研究は、インドネシアのガジャマダ大学セミアルティ博士との共同研究として行っている。

(1) コチョウランの形質転換法の開発

コチョウランの遺伝子機能の研究においては、原種となるPhalaenopsis amabilisを材料とする。そのためには、まず、Phalaenopsis amabilisの形質転換ができることは極めて重要である。私達は、いくつかの工夫をすることにより、Phalaenopsis amabilisの形質転換に成功した。

(2) コチョウランのclass 1 KNOXホメオボックス遺伝子の解析

これまでの解析によると、ランにも、class 1 KNOX遺伝子の存在が確認された。今後、コチョウランのメリステム関連遺伝子と葉の初期分化にかかわる遺伝子の単離と解析をすすめたい。

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