堀田典生 中部大学生命健康科学部 運動生理学研究室

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科学研究費補助金報告2014(一般の方へ)

 

はじめに

私たちは,2014年度から新しい科学研究費補助金(科研費)をいただき研究を行うことができました.皆様どうもありがとうございました.

どのような研究か?

 シャーレの上の実験において,運動時の血圧や心拍などの循環の調節に関わるような求心性の神経は,酸性の環境に対して反応することは稀ですが,酸性の環境によって機械的な刺激(押すとか動かすとか伸ばすとか)に対して敏感になります(文献1,文献2,文献3).その酸性の環境による影響は,コンドロイチン硫酸という物質により抑制されることが既に報告されています(文献1).今回私たちは,その現象をシャーレの上の実験よりもより生体に近い神経のレベルでとらえ,また,そのメカニズムを少しでも明らかにしたいと考えています。

 それでは,この研究は,どのような意味があるのでしょうか?

 近年,ロコモティブシンドロームの対策として筋力トレーニング(いわゆる筋トレ)が強く勧められています.事実,アメリカスポーツ医学会も健康の維持・増進のために,ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動に加え,週2日程度筋トレをすることを推奨しています.しかし,運動をする場合,酸素運搬のために,血圧は上昇しなければいけないのですが,筋トレでは,活動している筋肉が必要とする酸素の供給以上に血圧が上がっていると考えられています.

 その理由の一つに,筋トレ中に筋が酸性環境になることが考えられます.運動時の血圧や心拍などの循環の調節に関わるような求心性の神経は,酸性の環境に対して反応することは稀ですが,酸性の環境によって機械的な刺激(筋の収縮や伸張などの動き)に対して敏感になり,血圧を過度に上昇させていると予想されます.

 もしも,コンドロイチン硫酸という物質によりその作用を抑制することを示せれば,筋トレ中の過剰な血圧増加応答を抑えることにつながり,より多くの方がロコモティブシンドローム予防や健康の維持・増進のための筋トレに取り組めることにつながるとの背景の下に研究を実施しています.

ロコモティブシンドローム(ロコモ,運動器症候群):加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気,骨粗しょう症などにより運動器(筋肉や骨など)の機能が衰えて,要介護や寝たきりになったり,そのようになる危険性が高い状態を指す言葉(日本整形外科学会のホームページを参考) http://www.joa.or.jp/jp/media/comment/locomo_more.html別サイトにリンクします

文献1 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22570376別サイトにリンクします

文献2 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25452124別サイトにリンクします

文献3 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20217373別サイトにリンクします

 

コンドロイチン硫酸とは

 関節痛や腰痛などに効果があるとされています.

  『関節痛や腰痛は比較的ご高齢の方々に多く,そのような方々が摂取を継続している→ご高齢の方々のロコモを予防するためには筋トレが必要→筋トレ中の血圧の過度な上昇は摂取しているコンドロイチン硫酸摂取のおかげで緩和される→筋トレを継続できる』,のような形でこの研究が貢献できたならば幸いです.

 

これまでの結果

 現在のところ,シャーレの上での研究と同じ現象(文献1)がラットの神経レベルでも観察できています.すなわち,運動時の血圧や心拍などの循環の調節に関わるような求心性の神経は,酸性の環境によって機械的な刺激(押すとか動かすとか伸ばすとか)に対して敏感になりますが,その酸性の環境による影響は,コンドロイチン硫酸という物質により抑制されそうです.今後はもう少し生体でのコンドロイチン硫酸の吸収率(ヒトにおいて飲んだコンドロイチン硫酸がどの程度体内に取り込まれるか)を考慮して,より濃度が低いコンドロイチン硫酸で同じ現象が観察できるか確認する作業が必要です.

 

利益相反, 研究者の方へ

 本研究におけるコンドロイチン硫酸は,ゼリア新薬工業株式会社様からの供給を受けていますことを申告します.

 上記の内容は一般の方向けに可能な限り分かりやすく説明しようと心がけました.学術的には不適切な言い回しが多々あると思いますが,学会発表や論文としても報告して参りますので,科学者・研究者の方はそちらをご覧いただければ幸いです.

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