堀田典生 中部大学生命健康科学部 運動生理学研究室

  • ページの本文のみをプリントします。ブラウザの設定で「背景色とイメージを印刷する」設定にしてください。
  • ページ全体をプリントします。ブラウザの設定で「背景色とイメージを印刷する」設定にしてください。

科学研究費補助金報告2010(一般の方へ)

 

はじめに

私は、2009-2010年度、科学研究費補助金(科研費)をいただき研究を行うことができました。ここに感謝の気持ちと研究成果を可能な限り分かりやすく示し、少しでも多くの方に還元できれば..と思っております。皆様どうもありがとうございました。

運動開始直後の換気の急増の生理学的な意味は何であろうか?

運動を行うと換気(簡単にいえば呼吸)が増えます。何も考えなくても、酸素を必要としている組織(活動している筋肉)の需要に応えるように増えていきます。体内に酸素を取り込む第一の機能が呼吸ですからとても理にかなっているといえます。

しかし、運動開始直後の20秒間くらいは、実は組織(活動している筋肉)は酸素を使うことがあまり得意ではないと考えられています。ということで、どうせ酸素を使えませんから、あまり換気が増える必要はないように思えます。それなのに、運動開始直後1呼吸目から換気は急増してしまいます。なんとも不思議な応答が運動開始直後に生体では生じております。

つまり、運動生理学的な立場(運動時に酸素をいかに活動している筋肉に送れるか)に立ってみますととても無意味な反射的(無意識的)な応答をしているようにみえます。しかし、何かしらの意味があるはずだと考え、私たちは研究することにしました。

例えば、フィットネスクラブにおいてあるようなエアロバイクで80Wという運動をしたとします。その運動では筋肉が100という酸素を必要したとすると筋肉が100の酸素を使えるのは運動を始めて約3分後です。酸素を使うのが苦手な運動開始直後20秒後間を過ぎてから徐々に酸素を使いだして、ようやく3分後に需要に見合った酸素が利用できるというわけです。

さて"徐々に"といいましたが、早く100の酸素を使えるようになれば、生体にとってとても都合がよいということになります。なぜなら、酸素を利用して運動することが、長時間持続することや疲労しにくいことにつながるからです。そしていつも("通常"や"平均")よりも早く100の酸素が使えるようになることを"応答速度が速まる"、逆に、いつもよりも100の酸素が使えるまでに時間がかかることを"応答速度が遅くなる"と表現します。

ちなみに、マラソン選手は一般の方に比べて、運動時の酸素利用の応答速度は速いことが知られています。逆に運動をしないで筋肉を動かさない状態が続くと、運動時の酸素利用の応答速度が遅くなる傾向になることを私たちもは2006年の論文で報告しています。

そこで、私たちは、運動開始直後20秒間の換気急増がその後の運動時の酸素利用の応答速度を速めようとしているのでないかと思ったのです。実験では、いつもよりも運動開始直後の換気急増量を増やしてみると運動時の酸素利用の応答速度が速くなりました。逆に、いつもよりも運動開始直後の換気急増量を減らしてみると運動時の酸素利用の応答速度が遅くなりました。

以上から、運動開始直後の換気急増には、できるだけ運動時の酸素利用を助けようという運動生理学的意味があるのではないかと考えることができそうです。どうやら、運動開始直後から呼吸をすることは大切ですし、例え苦しくなくても呼吸を止めることは生体にとって不利になりそうですね。酸素を利用して筋肉を動かすことが生体には負担をかけない運動ということになりますので、運動指導の場面でも"運動開始してすぐは苦しくないけど呼吸をとめてはいけない"と指導することが大切かもしれません。

科学者・研究者の方へ

上記の内容は一般の方向けに可能な限り分かりやすく説明しようと心がけました。学術的には不適切な言い回しが多々あると思いますが、学会発表や論文としても報告して参りますので、科学者・研究者の方はそちらをご覧いただければ幸いです。

さいごに

この写真は、イギリスのリーズ大学にて研究発表をしたとき、この手の分野で非常に著名なWhipp先生と撮っていただいたものです。Whipp先生からのご意見はとても参考になりました。イギリスへの渡航はもちろん科研費によります。皆様にはとても感謝しております。本当にどうもありがとうございました。今後とも社会に貢献し得る研究を行って大学教員としての責務を全うしていきますので何卒どうかご理解・ご支援・ご協力のほど、よろしくお願い致します。

ページの先頭へ